CASE 13 西陣の家

CASE 13　西陣の家

京都西陣。通りには伝統的な町屋が立ち並び、かつて間口の広さによる課税があった名残をそのまま留めている町並みにY邸は建築されました。間口6ｍ奥行き34ｍ、まさに「うなぎの寝床」のような細長い敷地です。また2007年に施行された京都市の景観条例により瓦屋根しか認められておらず、屋根勾配や外壁の色まで許容範囲を定められています。
厳しいルールの上、隣家が迫る条件の中、いかにY様がイメージしている「明るく開放的に家族が楽しめる暮らし」を実現するかが命題となりました。
設計前の現場調査では厳しい条件ばかりが目に付き、設計を考える上で軸になるコンセプトがなかなか定まらず、繰り返し現地に足を運びました。何度目かの訪問時に2ｍの脚立を持ち込みその上に立ってみると、敷地裏に隣接するお寺の向こうに大きな木が立っているのが確認でき、下から眺めているだけでは劣化した外壁にしか見えなかったお寺も、葺き替えて間もない立派な瓦が積まれていることがわかりました。こうして、終の棲家として計画されている住宅と承知の上で、生活の中心を2階に据えるプランをご提案するに至りました。却下されることを覚悟してのプレゼンテーションでしたが、ご夫妻はとても柔軟に受け入れてくださり、実現した建物はコンセプト通り、LDKと広い書斎コーナーを一体とした明るく伸びやかな住まいとなりました。伝統的な町屋に習い建物の中腹部に庭を設け、家全体の通風と採光も確保されています。
歴史深い通りに面したY邸。昔から残る建物に囲まれ今は新米住宅ですが、次の世代を担う重要な役割を控えています。その重責をきっと十二分に果たしてくれるものと期待しつつ今後の保全管理に関わらせていただきたいと思います。

細長い家に光と風を行き届かせるために設けられた中庭は、床壁ともにデッキ材で仕上げられている。内外の一体感を生むために屋内の床と貼り方向を合わせた。

2階に設けられた書斎からも中庭の木が観賞できる。デッキ材で仕上げた壁は隣接する建物からプライバシーを守りつつ光は取り込める高さを検討。書斎机や本棚はタモ材を使いALLで製作した特注家具。

リビングからは境界際に隣接するお寺の屋根と公園の木が借景となる。最大5.2ｍの天井高さを確保したリビングダイニングは、床にナラ材、天井にシナ材、壁には珪藻土を左官で仕上げ、タモ材をふんだんに使用した家具を造り付けた。天然素材で構成された空間は差し込む光を柔らかに拡散する。

リビングダイニングと書斎コーナーを見返す。書斎コーナーに造り付けられた本棚の上下には建築化照明が仕込まれており、手元の明るさを確保しながら光の演出も加える。随所に設けられた開口部が心地良い明るさを採り込んでいる。

1階玄関横に設けられた和室は、長押を回した伝統的なスタイル。天井は霧島杉の笹杢を羽重ね貼りに、床柱は華やかな雰囲気の赤松、床框は杉面皮カシュー塗り、落し掛けには大人しい杉をチョイス。

床から天井までの大きなFIX窓は視覚的に内外の境界を曖昧にする効果と、細長い家の1階に明るさをもたらす役割を担う。2階への階段は広く緩いものとし、将来電動昇降機が設置できるように下地補強を施してある。階段から降りてきた正面に開口を設け狭く感じないよう配慮。

書斎コーナーは集中できるように、タモの柱と梁でやんわりと囲った。列柱の間には小物を飾る棚をランダムに設置。トンネルのようなこのエリアを抜けると開放的なリビングダイニングへと続く。

キッチンから書斎コーナーを臨む。タモの列柱が醸し出す有機的な雰囲気に合わせ壁の角を丸く仕上げて柔らかな印象に。天井の機器はビルトインエアコンの噴出し口。

天然石のカウンターとタモ材で製作したオリジナル洗面台は、脱衣室と分離し2階の廊下奥にオープンスペースとして設置した。引き出しにはドライヤー専用のコンセント付BOXも備わる。右側の小さな引き出しは奥様と2人のお嬢さんの小物を各自収納するためのもの。L型に造作した鏡裏の照明に照らされているのはモザイク大理石。